平成22年3月31日

内閣府仕事と生活の調和推進室 発行
Office for Work-Life Balance, Cabinet Office, Government Of Japan


ワーク・ライフ・バランスと地域コミュニティの活性化について、(財)さわやか福祉財団の大畠政義(おおはた・まさよし)氏にお話を伺いました。

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●1200万人のボランティア

さわやか福祉財団は「それぞれの人が自分を大切にし、互いの個性やプライバシーを尊重しながら、困った時はお互い様と自然に触れ合い助けあう」……そんな生き生きとしたあたたかい地域社会づくり、新しい社会づくりを目標に活動しております。昨今の社会情勢を見ると、近い将来には4人に1人が高齢者となり、少なく見積もっても全国で約1,200万人のボランティアが必要になると考えられています。
これまでは高齢者を中心とした生活支援や心の交流などを行ってきましたが、近年はサラリーマンや主婦、学生たちもボランティアに参加して頂けるような仕組みづくりに取り組んでいます。2004~2006年には、厚生労働省から「勤労者マルチライフ支援事業」を受託。マルチライフとは、勤労者がボランティア活動や趣味、スポーツ、生涯学習などのさまざまな社会活動に参加し、「個」の確立をはかり、職場以外にも多種多様なつながりを持つライフスタイルのこと。会社だけでなく、ボランティアや地域団体活動を行うことによって、在職中の生活の視野を広げ、退職後の生きがいにつなげていく。また、地域での人と人とのネットワークをつくり、勤労者が自分の居場所を築くことでワーク・ライフ・バランスの実現を可能にする。このように、皆が広く・無理なく・継続的にボランティアに参加できる仕組みづくり、仕事と生活の調和が図れる社会づくりを基本としてシンポジウムや環境整備などを行っています。

●有給ではない特別な休暇を

活動の中で「勤労者だけでなく、経営者にも理解して頂くことが必要では」と考えた私どもは、2007年に厚生労働省が推進する「特別な休暇制度普及促進事業」を受託し、経営者や人事担当者など、企業側に焦点を当てた取組みをスタートさせました。ボランティア休暇やリフレッシュ休暇、バーゲン休暇など、その会社独自の特別な休暇をつくるよう働きかけるというものです。制度の導入と活用の啓発により、社員個人が本来持っている資質を発揮させるのに重要な総合能力を育むのはもちろん、優秀な人材の定着にもつながると考えております。

●勤マル事業の推進

このように、モデル地域で体験プログラムや経営者セミナーを行ってきたものの、一昨年の秋頃から景気が悪化したこともあり「その時は盛り上がるけれど、先が続かない」という声が聞かれるようになりました。そんな時、モデル地域である福岡県で「勤マルの日」という一斉ボランティア体験のイベントが行われました。県内いくつかの拠点で、勤労者たちが気軽にボランティア活動に親しむ機会を提供するというもので、昨年は国有林の松の木の間伐やカブトムシの森保全活動、ビーチクリーンのボランティアなど11のプログラムを実施。多くの方々にご参加いただきました。
今年2月には和歌山県で「しんぐう元気フェスタ」を開催。イベント当日には新宮市の人口約3万人のうち約2000名が参加し、地域に根ざしたイベントとして非常に効果を上げています。

●パートタイム市民からフルタイム市民へ

サラリーマンが40年間勤めた場合、勤務時間はトータルで(1日9時間×260日×40年=)9万3600時間になります。その後、60歳で退職して80歳まで生きるとすれば、自由な時間は(1日14時間×365日×20年=)10万2200時間。比較すると退職後の時間のほうが長いことが分かります。以前は寝に帰るだけの我が家だったけれど、定年後は地域にいることが多くなる……つまり、パートタイム市民からフルタイム市民になるわけです。この「地域での時間」を、豊かに過ごすためにはどうすれば良いでしょうか。
言うまでもなく、地域には会社とは違う世界が広がっていますから、現役の時代に「仲間づくり・役割づくり・居場所づくり」をし、準備を整えてみてはどうでしょうか。キーワードは「ないもの探しより、あるもの探し」……難しいことではなく、もっと簡単な、すぐにできることから始めましょう。それには「好・楽・縁」(好きなこと・楽しいこと・仲間)が大きな支えになると思います。

●人間力の再生を目指して

ワーク・ライフ・バランスは、自助と共助です。自助は「自分で生きていく力」、共助は「人と助け合って生きていく力」。現代社会は人間関係がドライになり「自分さえ良ければ」という考えばかりが強くなっているように思います。自助と共助を併せ持つことは、人が人間らしく生きていくための力、つまり「人間力」です。当財団の「人間力再生プロジェクト」では、活動の一環として、名刺の裏に自分の所属するボランティア活動などの会の名前を印刷する「名刺両面大作戦」をスタートさせました。個人が所属するNPO・NGO、町内会、趣味などの名称を印刷し、仕事以外での社会活動の能力をアピールします。企業としては間接的な社会貢献のPRになりますし、仕事のコミュニケーションが取りやすくなるなど、さまざまなメリットがあります。
さわやか福祉財団は、全ての人が尊厳と生きがいを持って活動できる「新しいふれあい社会」の構築と、働く人のワーク・ライフ・バランスの実現を目指しています。この活動によって、日本の社会がますます活気あるものになればと願ってやみません。

続いて、ワーク・ライフ・バランスとライフセービングについて、日本ライフセービング協会理事長の小峯力(こみね・つとむ)氏にお話を伺いました。

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●2分に1人への挑戦

日本ライフセービング協会は、国際ライフセービング連盟の日本代表機関として、NPO法人認証を受けたライフセービングの全国統括団体です。全体の約7割を水が占めるこの地球上で、水が原因で亡くなる人の数は年間およそ37万6千人。100秒に1人、世界中のどこかで水辺の事故により尊い生命が失われているという現実から、1人でも多くの生命を守るために活動を続けております。
ライフセービングを直訳すると「人命救助」ですが、正確には人命救助を本旨とした社会活動を指し、一般的には水辺の事故防止のための実践活動です。人命救助は確かに尊いけれど、それに至らしめない空間をどうつくっていくか。苦しみを与えない場面を形成するという意味では「事故を未然に防ぐこと(=Drowing prevention )」こそが、真のライフセービングだと考えています。

●社会的使命

ここで、レスキュー及び応急手当の実績をご紹介しましょう。1998~2008年の応急手当は15万3371件、レスキュー合計は2万2140件でした。軽溺者(意識はあるが、自力で浮き続けることができない状態の溺者の救助)は1461件、安全移送(自力で移動することのできない遊泳者を浜や安全な場所まで移動したもの)は2万518万件でした。ライフセーバーが溺れそうな人を発見し、危険に陥る前に手を差し伸べて浜辺に連れてくる……まさに私どもの活動件数です。なお死亡は81件、蘇生(救急時、意識なしもしくは脈、呼吸停止を蘇生させたもの)は71件。これらが119番通報の数になります。

●ヒューマンチェーンの充実

ライフセービング活動には2通り、つまり「ライフセービングそのものを学び・活動していくこと」と「ライフセービング活動によって獲得した生命尊厳の精神を、あらゆる分野に広げ社会貢献していくこと」があります。救助者同士の手首を互いにつかんで水没した溺者を捜査する方法をヒューマンチェーンといいますが、救命・スポーツ・教育・福祉・環境……の各分野を社会貢献の輪を充実させ、いわば社会のヒューマンチェーンを広げることを目標に活動を展開しています。

●競技力向上=救助力向上

事故は未然に防ぐことが重要ですが、実際に事故が起こった時、大きな波や強い潮の流れの中で人を救助するのは簡単なことではありません。場合によってはたくさんの人が溺れ、救助を繰り返さねばならないケースもあるため、ライフセーバーたちは日頃からトレーニングを行い、救助に必要な技術を磨いています。その成果を競い合い、技術をより高めていこうと開催されているのがライフセービング競技会です。
競技の中で最もメジャーなスポーツといえば、ビーチフラッグでしょう。この競技でフラッグ(旗)は傷ついている人を意味します。傷ついた人の元へいかに早くたどり着き、安心を与えることができるかを競う競技なのです。
ライフセービング競技は、1908年にオーストラリアで始まりました。実際の救助で要求される要素をベースに考案された競技種目は、数十種類にのぼります。現在は2年ごとに世界選手権が行われる他、国内では年間10以上の大会が開催されています。 競技力向上は救助力向上。スポーツとして競い合うことでフレンドシップが生まれ、同時に救助能力を高めることで、いざという時に人の生命を救うことができ、さらには安全な地域振興の活性化につながると考えています。

●自分の身は自分で守る

ライフセービングの「ライフ」には、自分や家族の生命も含まれています。水の事故を起こさない、自分の身を自分で守るための安全教育こそが事故を未然に防ぐ近道です。「救助する人だけを養成しても、事故は減らない」……この考えに基づき、一般の方々を対象とした心肺蘇生法講習会や水の安全に関する教育活動などを継続的に実施しています。
また、誰もが安心して水辺を楽しめるような環境づくりにも力を入れ、ライフセービングの知識や技術を活かした活動を展開しています。環境保全活動を通じて、生命の源ともいえる水と空気を守っていくこともライフセービングの使命です。

●ライフセーバーのいらない社会

ライフセービングは、どなたでも参加できる活動です。例えば、泳げなかったり、身体的なハンディキャップがあったとしても「人の役に立ちたい、人のために尽くしたい」という社会奉仕と博愛の精神があればいつでも始めることができ、年齢制限による引退もありません。
海岸やプールでの監視・救助活動を行うには、たくさんの専門的な知識や技術が必要です。そこで当協会ではライフセーバーの資質向上を目指し、全国各地で講習会を開催。最先端の技術を取り入れ、実践活動で磨いた救命技術の指導を行い、これまでに約3万8000人の有資格者を養成してきました。
社会は人と人が支え合う仕組みですが、その根本にある生命をお互いが尊敬し合い、一人ひとりが自分の身を自分で守ることができれば、ライフセーバーの存在は必要なくなるでしょう。ですから、日本ライフセービング協会理事長である私が掲げる最終的な目標は、役割を終えて協会を解散させることにあります。
大切な人を救うため、また自らを守るために、皆さんも始めてみませんか。

Q&A

●「社会人のボランティアで、ライフセービングは難しいのでは」と思っていましたが、今のお話を聞いて、レスキュー活動以外にも広がりを持ち、地域社会の活性化にも貢献なさっていることが分かりました。実際には、どのような方々が仕事をしながら活動をしておられますか。

○(小峯氏)
 一般的なイメージだと体育会系の男性が多いように思われるでしょうが、実はライフセーバーの半数が女性です。最近では、50~60代のシニアの参加者も増えています。ライフセービングの活動は人間教育にも非常に有用な手段です。そういった意味では、どんな場所でも困っている人に手を差し伸べられる自己研鑽の場でありたいと考えています。

●「将来は、ライフセーバーのいらない社会を」とのことですが、具体的にどんな社会を想定していらっしゃいますか。

○(小峯氏)
 例えば、講演で「あなたはこれまで、どのくらいレスキューしましたか?」という質問が出たとします。日本人は胸を張って「数えきれないくらい多くの救助をしました」と答え、それが賞賛に値するのでしょうが、諸外国では評価されません。なぜなら、たくさんのレスキューをしてきたということは、事故を未然に防げなかったということ。ですから、救助の回数の多いライフセーバーは尊敬されず、むしろ回数の少ないほうが苦しみを与えないライフセーバーであり、真のライフセーバーなのです。このように、日本と海外では生命の尊厳についての考え方がまるで違います。
 オーストラリアでは、ビーチがライフスタイルの中に組み込まれていることもあり、高齢者のライフセーバーが増えています。自らの人生の尊厳として、自分が社会の役に立っていることを表現し続けたいのだとか。日本もこういった思想が広がり、ごく自然に助け合いのできる社会になればと思います。

●特別な休暇制度を導入している企業の例を、他にもご存じでしたら教えてください。

○(大畠氏)
 ある会社の「夏休み1か月制度」は、大胆な休暇制度として注目を集めています。1か月休みがあるいうことは、残りの11か月間で12か月分の仕事をするということですから、計画を立て、関係機関への早期通知などを徹底しているようです。 年明けの1月に社員がくじを引いて休みを決める「がんばれ休暇」や「団らん休暇」「ファミリーサポート休暇」など、他にもたくさんありますが、いずれも(休みが飛び石だと仕事がはかどらないので)できるだけ短い時間で集中して仕事をし、生産性を上げたいと考えているようです。

●顧客から携帯電話に電話がかかってくることが多いので、特に営業職では長期休暇を取ることが難しいそうです。長期休暇の取得をお客さまに理解していただくためには、どうすれば良いでしょうか。

○(大畠氏)
 自分の机の引出しに書類をしまうことをせず、情報を共有化し、皆が閲覧・利用できるようにするといった仕組みづくりが必要だと思います。誰かが休んでいる中で仕事をこなすには、他の人の仕事を把握し、それを代行できる力がなければいけませんから、仕事のやり方を見直すことにもなるのでは。
 また、システムの構築はもちろんのこと、トップの考え方も大切でしょう。社長が胸を張って「何がなんでもやり遂げる!」と宣言し、自ら進んで休暇を取るような企業は、環境整備にも積極的ですね。

●休暇を取得するとそれだけ平日の残業時間が増えてしまうので「平日はできるだけ早く帰り、土・日だけ休む」と考え方もあるようですが……。

○(大畠氏)
 以前、ダラダラ残業をなくして仕事と会社の活性化を図るワークショップを開催し、残業が増える原因について考えたところ「上司がずっといるから帰りづらい」「昼間は雑用が多く、夜にならないと自分の仕事ができない」などの意見が多く出ました。解決するためには、やはりきちんとした計画を立てて仕事をすることだと思います。 労働時間が長ければ仕事の効率が上がるかというと、そうではないし、そんなことを続けていては体がもちません。1か月分の仕事が31日で終わる月もあれば、30日、28日で終わる月もある……効率よく仕事するためにどうしたら良いかを、社員が一丸となって真剣に考え、意識の改革をしていくべきではないでしょうか。
ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」をただ遊んで過ごすのではなく、そこでさまざまなことを学び、吸収し、人脈を広げていく。そこで得た人脈が、もしかしたら会社にフィードバックされることもあるかもしれません。そういう発想を持つことも大切ですよ。

●お二人にお聞きします。企業人がボランティアを始めるきっかけやコツを教えてください。入りやすさや続けやすさのポイントがありましたら、併せてお願いします。

○(大畠氏)
 好きなこと・楽しいことから始めましょう。そして何より大切なのは、持続させることです。
 まず、ボランティアは難しいことではないと考えてください。話下手な人であれば、認知症のお年寄りの昔話を聞くことや、子どもたちの登下校を見守り、笑顔を絶やさないことも立派なボランティアです。
 ボランティア・市民活動に関しては、お住まいの地域の社会福祉協議会のボランティアセンターにたくさんの情報が寄せられています。

○(小峯氏)
 相手からの感謝の言葉を聞いた時に、自分が役に立っていると感じ、満たされるから続けられるのだと思います。これまでは自らが求めるものだけを追えば良かったけれど、これからは他者の求めに対し、自分がどのように役にたつか、そのためにはさらに多くの事を学び自分のレベルを上げて行く。そのことで、仕事だけでは得られない付加価値が生まれ、自分自身に誇りを持つようになるでしょう。
 ライフセービングは、水難救助にとどまらない、生命活動に密着した社会貢献活動です。快適で安全な地域生活に貢献し、他者から感謝されることが、やりがい・生きがいにつながるのだと思います。

●ボランティアというと、無収入というイメージが強いせいか「ボランティア活動をするよりは、セカンドジョブをしてその分収入を得て、社会に貢献していく」という考え方もあるように思います。それについてはいかがですか。

○(大畠氏)
 私どもは「働きたい時に、働きたい場所で、自分に合った仕事ができる」ことが真のワーク・ライフ・バランスだと考えています。人間関係が希薄だといわれる現代社会において、ボランティア活動を通じて地域社会と積極的に関わり、人との結びつきを深めていく。自分を大切にし、互いの個性を尊重しながら、困った時には助け合うことが自然にできる社会を目指していけば、人生が楽しくなり、人間らしく生きていけるのでは。会社にいて、与えられた時間内で仕事をこなしているだけでは、ワーク・ライフ・バランスとはいえないと思います。

○(小峯氏)
 ボランティア活動を途中でやめていった人も多くいますから、お気持ちはなんとなく分かります。自分の足下を見つめた時に、不安になるのでしょうね。家族が「他人を助ける前に、私たちを助けて!」と反対するケースもあると聞きます。
 「ボランティアとは志願である」と、私は教えられてきました。応急手当を「する」のではなく、これを「させていただく」にすると、感謝の気持ちが生まれ、自分自身が満たされる。きれいごとかもしれませんが、それこそが「かけがえのない報酬」ですし、そのように考えることでボランティア活動は成り立っているのだと思います。
 30年間の活動の中で、ライフセービングは生命を救うだけでなく、笑顔をつくりだしていることに気がつきました。安全・安心な所には、必ず笑顔が生まれます。これからも「ありがとう」という言葉を通じて、全国にたくさんの笑顔をつくっていければと思います。

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  今回のテーマの発端は「余暇に何をするか」。そこから「ボランティア」という発想だったのですが、お二人からはさらに深い、人生に不可欠なものとして貴重なお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。

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