仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けて ひとつ「働き方」変えてみよう!

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平成22年4月30日

内閣府仕事と生活の調和推進室 発行
Office for Work-Life Balance, Cabinet Office, Government Of Japan


●日本人の労働時間

厚生労働省は「毎月勤労統計調査」を実施しており、毎月事業所の賃金台帳等をもとに、労働時間を算出しています。しかし、この調査では労働者が自ら自宅等で行った仕事の時間や、サービス残業の時間は計上されていません。「毎月勤労統計調査」と総務省「労働力調査」を30年間比較してみると、オイルショック以降その差が徐々に増大しており、長期的に見るとサービス残業が増えている傾向が見られます。一概には言えませんが、年間平均2,200時間くらいの労働時間があると言われています。
今後、法定労働時間を下げても、サービス残業の実態を把握しなければ、実際の労働時間を減らす効果は小さいのではないでしょうか。
東京大学社会科学研究所の黒田准教授によれば、1986年と2006年の総務省「社会生活基本調査」を比較すると、労働時間の長さは変わっておらず、通勤時間だけが短くなったということです。1987年の労働基準法の改正をきっかけに、週休2日制が拡大され、土曜日を休みにする会社が増えたことが理由で、結果として平日の労働時間は延びているということです。

●残業ゼロは可能か

景気が悪くなると、多くの企業で行われることはまず残業削減です。残業を削減することで、正社員の雇用を守っているのです。しかし、今は正社員の残業時間調整と非正規社員の雇用者数調整の双方が行われています。
雇用の安定を考えると、雇用調整機能の役割を果たしている残業をゼロにすることは非常に難しいと思います。2008年、2009年の残業削減により、正社員80万人、パートタイマー30万人の雇用が維持されたと私は推計しています。欧州やアメリカのように不景気の時に失業率が跳ね上がらないのは、日本に残業というクッションがあるためです。ただ、長時間労働が生活や健康に悪影響を及ぼすことはあってはなりません。

●長時間労働がもたらすもの

前述の黒田准教授によれば、平日の労働時間が増えた分、睡眠時間が年々減っています。うつ病などの一つの大きな原因は、睡眠時間の減少だと言われています。昨今、メンタルヘルスケアの必要性が声高に叫ばれていますが、何よりも睡眠の確保が重要です。
近年、「過労死」や「過労自殺」という言葉をよく耳にします。過労死というのは主にストレスや長時間労働等が原因で脳や心臓疾患で死亡することを指します。もともと、自殺は自分の意思によるものなので、過労が原因であっても労働災害とは認められてきませんでしたが、1999年以降、嫌がらせや仕事のプレッシャーなどを原因として精神障害を来たし自殺することも、過労自殺と認められるようになりました。
現在、労災認定において、過労死の認定請求は年間300件くらい、過労自殺の認定請求は150件くらいとされていますが、これは氷山の一角であると思われます。2007年に脳・心臓疾患で亡くなった20歳~59歳の人は、23,000人にのぼります。この中の何人かは過労が原因になっている可能性があります。
警察庁の統計によれば、2007年に自殺した約33,000人のうち、無職者は約19,000人、雇用者は9,150人でした。自殺の理由では「勤務問題」が2,401人、「経済・生活問題」が7,404人とされており、過労自殺の割合を推定することは難しいです。

●残業は「会社のせい」?「自分のせい」?

2008年に正社員を対象に残業の実態について調査(複数回答)したところ、残業の理由としては、「所定労働時間内では片付かない仕事量」が6割で最も多く、次に「自分の仕事をきちんと仕上げたい」でした。
自分の仕事をきちんと仕上げたいとは思わなかったのに、所定労働時間内では片付かなかったとした人は約4割にのぼりました。この人たちに関しては、「会社のせい」で残業をしていると言い換えられます。一方で、約2割の人は「所定労働時間内では片付かない仕事量」、「自分の仕事をきちんと仕上げたい」の両方を選択しており、これは日本人の複雑な心理を表しているのではないでしょうか。

●サービス残業はなぜ起こる

中小企業に多いことですが、会社が残業手当の上限を設定している場合があります。また、専門職やホワイトカラーの中には、自分の勉強のためだから、評価につながるからという理由で残業手当を申請しない人も多いです。さらに、多くの企業では管理職には残業手当が出ませんが、これが法律上の「管理監督者」に必ずしも一致しているわけではありません。同じようなことが、裁量労働制が認められている人にも言えます。
ホワイトカラー・エグゼンプションの議論が数年前に盛り上りましたが、これは、一律に時間で成果を評価することができない労働者の勤務時間を自由にし、有能な人材の能力や時間を有効活用することを目的としていました。しかし、成果や賃金の高い人は一般的に労働時間も長い場合が多いのではないでしょうか。

●有給休暇を取らないのも問題

長時間労働の問題として、休暇を取らないことも指摘されています。忙しければ仕事を休めないのは当然で、長時間労働をしている人ほど、休暇取得率が低いという相関関係があります。
病気欠勤に関して、主に中小企業に適用される健康保険では、4日目以降でないと傷病手当でカバーされないため、3日目までは無給となります。先進的な会社では、この3日間を特別休暇とする場合もありますが、このような仕組みがない企業では病気欠勤を取りにくい風潮があります。欧州の場合、病気欠勤で無給になっても、それはそれと労使ともに考えています。日本では有給休暇は労働者が休暇を請求する権利とされている一方で、欧州では企業側に休暇を付与する義務があります。そのため、企業は年度の初めにあらかじめ休暇の年間計画を立てています。
日本では、ホワイトカラーの全従業員の年次有給休暇の取得日をあらかじめ定めている企業は皆無に等しいですが、欧州ではほとんどの会社が行っていることです。日本では、残業は雇用のバッファになっているので、この取組みを取り入れるのは難しいかもしれません」

●残業は本当に必要か。

残業には雇用を維持する機能があるので、ある程度の残業は必要だと思います。しかし、働き過ぎはよくありません。これを社会全体で理解する必要があると思います。
また、働く時間に関して、「長い」方の選択肢だけではなく、「短い」方の選択肢をもっと作ることが重要です。「短時間正社員制度」は、制度利用者がかなり遠慮していると聞きます。社員の多くが残業している企業では、短時間制度を利用することが後ろめたく感じられるのです。長時間働くことができない人に対して理解を示すことのできる環境作りが必要です。
現代社会では、終わりの見えない仕事が増えています。研究職や人事、総務などのホワイトカラーが以前よりも多くなっています。質の高さを求める成果主義が多くの企業で普及したことにより、長時間労働の圧力が高まっています。本来、技術の発展はより社会を豊かにするためのものであり、同時に人間の進歩の証明であったはずが、現代社会の人間の生活そのものを豊かにしているようには思えません。働き方を変えないと今後、女性の社会進出がより難しくなり、少子化がより進み、そして過労死する人ももっと増えると思います。中長期的には長時間労働だけの問題ではなく、社会全体の在り方の見直しとなることでしょう。

Q&A

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●日本人の働き過ぎには、欧州などと比較して文化的な背景があるのでしょうか。日本も欧州のように労働時間を短くすることは可能でしょうか。

○(小倉氏)
 決定的に大きな違いが生じたのは文化、宗教的な背景よりも、第二次世界大戦後の経済復興の仕方にあると思います。欧州では戦略的に「賃上げ、労働時間の短縮、休暇」をひとつのパッケージとして考えて労働組合が要求しそれが普及していったため、現在のようなバランスの取れた働き方が実現していると考えられます。

●社員を定時に帰らせるために、あるいは仕事の質を上げるために外部に仕事を委託する企業も多いと思います。そうすると、外部の企業に長時間労働のしわ寄せが起きるのではないでしょうか。

○(小倉氏)
 結果的に、強い者が弱い者を従わせる社会風潮がまだまだあるように思います。もし、委託先が深夜労働をしなくてはならないような環境を作り出しているのであるならば、委託元の会社にも責任があります。

●有給休暇の取得を促進するよう労働者の意識を変えようとしてもなかなか変わらない場合、どうしたらよいのでしょうか。

○(小倉氏)
 有給休暇を取らない人には心理学的な手法で見ると4つのタイプの人がいます。
  1.休んでもすることがない
  2.業務量が多いから休めない
  3.人事評価が気になる
  4.何かのために残しておきたい
この4つのタイプの人と休暇取得率の因果関係を調査したところ、「2.業務量が多いから休めない」人たちの休暇取得率が最も低かったです。その次が「3.人事評価が気になる」。一方、「4.何かのために残しておきたい」と回答した人たちは何かの理由で休暇を取る人が多いようです。「1.休んでもすることがない」という人は、長期の休暇を取るのがなんとなく怖いのだと思います。まず、経営層や役員、管理職から休暇を取る、これが大切だと思います。

●日本の企業では、残業を管理するマネジメント層がいくつもあることが多いですが、どのようにしたら残業は少なくなると思いますか。

○(小倉氏)
 いまだに日本社会では、残業時間が長いほど評価されている風潮があるように思います。しかし、発想を転換して、マネジメント層に対する評価を明確にし、管理職が徹底して残業を減らす管理をすることは重要です。


●残業を減らして、休暇を取ることは大事です。しかし、若手などある時期は思いっきり仕事をすることが将来役に立つことも多々あるのではないでしょうか。

○(小倉氏)
 仕事をしたい時は、それを認める必要があると思いますが、ちゃんと仕事をしていることを可視化することが重要です。ルールを固定化すると、機能せず社員の定着率も低くなりがちになりますが、ルールを柔軟にして社員が必要としていることを取り入れ、社員が働きやすい環境を作ることが大切です。


●先進国の中でも日本は労働時間が長いですが、今後中国やインドなど、生産性が高く、労働時間も長い国が出てくると思いますか。

○(小倉氏)
 中国が経済発展することは間違いないですが、日本のように長時間労働をすることはないと思います。日本の国際競争力が低下すると懸念される声も聞きますが、中国やインドの発展によって、日本の産業も総じて潤うであろうことを考えると、歓迎すべき点ではないでしょうか。


●日本人の価値観は変えにくいと言われています。ヨーロッパでは様々な考え方や価値観があるように、雇用の多様化も進んでいるように思いますが、なぜ日本では進まないのでしょうか。

○(小倉氏)
 例えばオランダではワーク・シェアリングが進んでおり、週3日勤務の専門職や管理職もいます。その職務が遂行できれば、性別、年齢も関係ありません。日本では、正社員と非正規社員の間の待遇に開きがあり、格差が生じていますが、欧州では法律などで双方の処遇や権利が等しく保障されています。日本の場合、雇用の多様化よりも、正社員と非正規社員の格差を解消していくことが必要です。