1.日時
平成19年7月17日(火)8:05~8:30
2.場所
総理大臣官邸3F南会議室
3.出席者
(関係閣僚)
- 塩崎 恭久
- 内閣官房長官
- 高市 早苗
- 内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)
- 大田 弘子
- 内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
- 柳澤 伯夫
- 厚生労働大臣
- 甘利 明
- 経済産業大臣
- 土屋 正忠
- 総務大臣政務官
(団体の代表者)
- (社)日本経済団体連合会会長
- 日本商工会議所会頭
- 日本労働組合総連合会会長
- 関連労働組合連合会議長
(有識者)
- 日本女子大学人間社会学部教授
- 東京大学社会科学研究所教授
- 慶應義塾大学商学部教授
- 国際基督教大学教養学部教授
(欠席者)
- 全国知事会会長
4.議事概要
○塩崎内閣官房長官
第1回の「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」の開催にあたり、一言ご挨拶申し上げたい。
ワーク・ライフ・バランスの実現とは、国民一人一人が、仕事だけではなく家庭や地域生活などにおいても、ライフステージに応じた自らの望む生き方を手にすることができる社会を目指すものであり、労働力の確保等を通じた我が国社会経済の長期的な安定の実現や持続可能性の確保にとって大変重要な課題である。
これまで経済財政諮問会議の専門調査会をはじめ、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議、男女共同参画会議の専門調査会など数々の場でその重要性について指摘をされており、内閣としてもワーク・ライフ・バランスの実現に本格的に取り組む決意である。
そのためには、官民が一体となって、これまでの働き方を抜本的に改革していかなければならない。
このため、経済界、労働界及び地方の代表者、関係会議の有識者、関係閣僚からなる官民のトップ会議を開催し、ワーク・ライフ・バランス実現のための憲章及び行動指針の策定を進めていくこととした。この憲章や行動指針は、ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、非常に大きな推進力になるものと確信している。
委員の皆様においては、お忙しい中恐縮だが、年内を目途に憲章や行動指針の策定をお願いしたい。
昨今、この「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は流行り言葉のようになっているが、原点に立ち返って、一体これは何を意味するのかを考えた上で、憲章や行動指針を策定していただき、国民の皆様と一緒に考え、行動していただければありがたい。
○高市内閣府特命担当大臣
それでは、これから議事に入る。
最初に、この会議、及びこの会議の下に設置する作業部会等について、内閣府から説明願いたい。
○柴田政策統括官
資料1をご覧いただきたい。先程の官房長官のご挨拶にもあったが、これまでの経緯を簡単に申し上げたい。
まず、4月6日の経済財政諮問会議の労働市場改革専門調査会第一次報告において、「ワーク・ライフ・バランス憲章を策定し、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた本格的な取組を進める」ということが盛り込まれた。
同日の経済財政諮問会議における民間議員ペーパーでも、「ワーク・ライフ・バランス憲章を基本的な考え方とし、行動指針を策定すべきである」ということが盛り込まれた。
また、経済財政諮問会議に出席した総理からは、「長時間労働を前提として経済が成り立つ、仕事が成り立つというのは間違っており、その観点から、生産性を上げていく努力をする、質を高めていく努力をするというのは当然であるし、また家族と時間を過ごすということは、家族がしっかりしていなければ国が成り立たないという根本にも遡ると思う。そういう意味において、ワーク・ライフ・バランスは大切であり、安部内閣として本格的に取り組みたいと思う。行動指針についても、政府部内で十分連携し、取りまとめることとしたいのでよろしくお願いしたい」という発言があった。
その後、男女共同参画会議の仕事と生活の調和専門調査会においても、憲章や指針について、関係会議等と十分な連携を図っていく必要があることが盛り込まれた。
また、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略中間報告においても、憲章や行動指針を政策のパッケージとして策定する必要があることが盛り込まれた。
3ページは、6月19日に閣議決定された「基本方針2007」における労働市場改革の部分であり、憲章及び行動指針を策定するということが盛り込まれている。
また、行動指針の具体的な内容として、就業率向上や労働時間短縮などの数値目標、ワーク・ライフ・バランス社会の実現度を把握するための指標の在り方、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた支援施策、制度改革等に関する政府の横断的な政策方針、経済界・労働界を含む国民運動の推進に向けた取組方針を含むこととされている。
4、5ページは、労働市場改革専門調査会で盛り込まれた就業率向上と労働時間の短縮に関する数値目標、ワーク・ライフ・バランスの憲章のイメージである。
次に、資料2をご覧いただきたい。今申し上げた経緯を踏まえ、この度、「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」を開催することとした。このトップ会議は、官民連携で子育て支援の国民運動を進めるために平成17年度より開催してきた「子育て支援官民トップ懇談会」を改組する形で発足させることとした。
メンバーは資料3のとおりであり、官房長官を議長とし、関係閣僚6名、経済財政諮問会議や「子どもと家族を応援する日本」重点戦略会議、男女共同参画会議の専門調査会の座長あるいは座長代理の方が入っており、それぞれとうまく連携が取れるようにしている。それから、経済界、労働界、自治体の代表の方が入っている。
また、本日議論していただくこととしているが、トップ会議の下に「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称)策定作業部会を設置し、指針の案を策定することを考えている。
策定作業部会のメンバーについては現在調整中であるが、有識者は先程の4名に加え、経済財政諮問会議、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略会議、男女共同参画会議から、それぞれ1人ずつ入っていただく。それから、経済界、労働界の代表者の方も2名ずつ入っていただくことを考えている、
資料2の2ページの今後のスケジュールであるが、8月下旬から10月にかけて行動指針の作業部会で検討を進め、10月を目途に作業部会での中間整理を行う。その後、10月を目途に官民トップ会議を開催し、憲章の議論と行動指針作業部会の中間整理報告を行い、必要に応じ、経済財政諮問会議等にも適宜報告を行う。そして、11月を目途にもう一度官民トップ会議を開催し、最終的に憲章と行動指針を取りまとめる。そして、これを「子ともと家族を応援する日本」重点戦略にも反映させたいと考えている。
○高市内閣府特命担当大臣
ただいまの説明について、ご意見があれば発言願いたい。
特段、ご意見がないようなので、行動指針の作業部会を設置して議論を進めることとしたい。作業部会のメンバーについては調整中であるが、確定次第、報告・公表することとしたい。
続いて、経済団体、労働団体の代表者から、一言ずつご意見をいただきたい。
○御手洗委員
今、日本に求められているものは、個人の生活と仕事とを両立させるということであり、ワーク・ライフ・バランス憲章や行動指針を年内に策定することについては賛成である。
しかしながら、ワーク・ライフ・バランスとは、働く人、従業員が選択できる多様な働き方の選択肢を与えるということであるが、そういった適切な働き方ができるということにおいて、生産性の向上につながらなければならないし、ひいては企業の競争力強化とも両立するものでなければ現実的ではない。実際に、既に、各企業において、フレックスタイム、短時間勤務、在宅勤務、事業所内託児所など、様々な形で自主的に労働環境を整えてきている。さらに、経営トップのリーダーシップでメリハリのある働き方が推奨されており、労働時間の長さでなく、成果に基づいて仕事の達成度を評価するという手法を導入し、これによって恒常的に長時間労働とならないような取組もされつつある。
こうした動きを踏まえ、今後策定されるワーク・ライフ・バランス憲章や行動指針の在り方について、2点ほどお願いしたい。
1点目は、各企業におけるワーク・ライフ・バランスの実践は、各企業の労使の自主的な取組を基本とすべきであるということである。したがって、今後、設定することとしている数値目標等は、安倍内閣が進めている成長戦略の足かせとなるような規制的な手法の呼び水とならないようにお願いしたい。むしろ各企業の取組を支援するという施策を講じていくべきであると思う。
2点目は、ワーク・ライフ・バランスが広く実践されるためには、国民の働き方や生き方に対する意識を変革していくことが求められるので、労使をはじめ幅広い主体が連携して継続的に啓発活動を行うなど、国民運動として展開してはどうかと考えている。
○山口委員
ワーク・ライフ・バランス憲章の策定は、国民の希望、将来の目標という重要な意味があり、非常に良いと思う。行動指針については、今後の策定作業部会において実態をよく踏まえ、議論していただきたい。今後、少子高齢化が進み人口も減少に向かうので、子育て支援のための仕事と家庭の両立は大変非常に重要なことであり、国の長期的な方針としても大事重要である。また、企業としても社会的責任を果たすべきものと考えている。しかし、今回の議論が時短闘争に様変わりするのではないかと感じており、そのようなことにならないよう、企業の最前線の実態、特に中小企業の実態を調べていただきたい。今後の行動指針策定作業部会にあっては、学問的な議論はともかくとして、実態を踏まえた際に即した議論を行った上で方針を固めてほしい。
資本金1,000 万円未満の企業は、法人全体の中で56%、特に小規模企業の従業員数としては雇用者の25%となっており、約1,000 万近い従業員は小規模資本金1,000 万円未満の企業に勤めている。また、これらの企業のうち、累積赤字、欠損を抱えるものは73.5%、単年度の赤字では46.6%となっている。これらの数値は平均であるが、相当苦しい企業が多いということを理解していただきたい。その中でどうやって目的を果たしていくかということであり、企業が力をつけ保っていかないとなかなか進まないという問題がある。
まずは週40時間という労働時間について実態をよく調べてほしい。資源が全くない日本が戦後60年の間に世界第2位の経済大国になったのは、国民の倫理感と高い労働意欲、教育・技術水準があり、過去からの蓄積もあった。それが今失われようとしているのではないか。資源のない日本は優秀な人材それを維持していかなければ、今の生活水準は保てない。そのようなことも考慮しながら、長期的な視野で議論していただきたい。だから、労働時間の問題や給与の問題以外に、家庭や教育の在り方等の方もがもっと大事だということについての配慮をお願いしたい。
○高木委員
言葉自体がかなり定着しているように感じるワーク・ライフ・バランスについて反対の人はいないと思うが、国民の間に合意形成、コンセンサスが得られているかどうか。例えば、ただいまの御手洗委員、山口委員からの経営側の立場として語られるワーク・ライフ・バランスと、私達がもつイメージでは少し異なる面もあり、その辺りについてできる限りコンセンサスが得られる必要があるかと思う。
確かに働き方は二極化しており、時間外労働が非常に多い従業員は増えている。特に一部上場の大企業等では会社は儲かっても社員はクタクタという過労状態のような状況もよく耳にしている。また、そういう中で過労死、メンタルヘルスの面で問題を抱える人たちも増えているし、一方で、貧困や格差といった問題の固定化が懸念され、その延長線上で年金、医療サービスさえ受けることができない人達も増えている。このような中で、少子化についてもなかなか歯止めがかからず、日本社会が今、非常に危機的な状況であることについては、経営側の皆さんも否定されない思う。とも思いを共有する部分もあるが、私達としても、単に労働時間の問題だけでなく、様々な切り口で議論していただきたいと思う。
働き方の多様化、生産性向上などについても、あるレベルで考え方を共有するが、いわゆる「自律的な働き方」という耳ざわりの良い言葉が使われ、時間管理の適用除外を更に広げるとの発想でアプローチされるとしたら、あまりうまくいかないと思う。残業の大幅な削減、労働条件の均等待遇ルールの整備なども含め、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて社会の仕組みが組み立てられていく必要がある。のではないかと思う。現在、ILOでディーセント・ワークという議論があるが、そうしたコンセプトについても、是非、憲章や行動指針に盛り込む必要があると思う。
○岡本委員
各企業におけるワーク・ライフ・バランスの取組が広がりつつあることは歓迎したいと思うが、その中身について、例えば、ファミリーフレンドリー企業などの施策をみると、どうしても働く女性への育児支援、介護支援といったものに傾斜している。今、問われているのは、残業の恒常化により家庭責任を果たし得ない男性正社員モデルの働き方ではないかと思う。ILO156号条約は、職業と家族的責任を果たすことは男女両性の権利としているが、日本の男性労働者の多くはこの権利を奪われていることになる。働き方の多様化だけでなく、この権利が当たり前となるように職場における働き方のスタンダードを変えるということも明確に打ち出してほしい。
また、ワーク・ライフ・バランスの取組は、大企業あるいは正社員向けの施策ではないかと思っている人達が多いが、国民運動に発展させるということであれば、中小企業で働く人達、また、非正規労働者の人達に対しても自分たちの施策であると思えるような支援施策も検討していくべきであると思う。
○高市内閣府特命担当大臣
本日は有益なご意見をいただいた。今後、経済界、労働界の代表者、有識者による行動指針策定作業部会において十分に議論し、一定の整理がなされた段階で、再度、本会議において議論していただきたい。なお、本会議の議事は会議終了後に公表とすることとする。