”共働かない夫婦”で絆が強固に。復帰後も、生産性の高い仕事を意識し、充実の日々を継続
- 執筆者の横顔:
- (1)会社員、(2)1,000人~4,999人、(3)40代前半、(4)30代後半、(5)本人・妻;子4人(男児2人・女児2人)、(6)平成19年10月~20年3月(6ヵ月間)
勇気を持って一歩を
桐野 吉弘さん
結婚して10年。8年前の長女の出産に始まり、以後長男、次女、次男と4人の子宝に恵まれた。妻は最初の出産を機に働いていた会社を退職、以後ずっと子育てに専念。ただ一昨年の次男誕生以降、転勤先の周りに頼れる親族もいない状況下で、妻の心身の疲労度はピークに達していた。表立って不満は漏らさないものの、疲れた表情や子どもたちと感情的に衝突する場面をよく見かけるようになっていた。当時の私はと言えば、毎日残業ばかりで平日はほとんど育児家事に協力できない状態。このままでは子どもたちにとっても、私たち夫婦にとってもいいことはない。思い切って育休を取得し、私自身が育児家事に積極的に関わることで、妻の負担を軽減し、子どもの成長にとっても大事なこの時期を家族全員で穏やかに過ごしていきたいと考えた。
妻が一番心配したのは、私が仕事をしないで暮らしていけるのかという点。共働き夫婦が多い今の世の中で、いくら幼い子どもを4人抱えているからといって、“共働かない夫婦”になることには多少抵抗があったようだ。時短勤務という方法も選択肢に上ったが、結局時間内では終わらず今までと同じようになることは目に見えている。可能な範囲で完全に休む以外に、私が描く暮らしを手に入れることはできないと決意を固めた。
上司に伝えたのは取得希望時期の1ヵ月半前。5ヵ月半の育休を申請した。社内での男性育休取得者は私で3人目だが、これまでの2人は本社の内勤者で、営業所勤務の社員としては私が初めて。育休については理解を示してくれたが、後日後任の配属がすぐには無理なので、取得時期を少しでも後ろ倒ししてもらえないかという打診があった。私が休むことで当然同僚たちにしわ寄せがいき、今までお付き合いしてきたお客さんたちにも迷惑をかけることは間違いない。そう考えると、時期をずらすことも必要かと思ったが、結果的には我が儘を通させてもらうことにした。同僚のうち数人が応援してくれていたからこそ一歩が踏み出せたのだと思う。
こうしてスタートした育休。この5ヵ月半は私たち家族にとって夫婦、親子、兄弟姉妹の絆をこれまで以上に深める貴重な機会になったように思う。妻と協力し合って育児家事をすることで時間と気持ちの余裕が生まれ、子どもたちに対して叱るよりも誉めることが多くなった。そして親のそうした変化は子どもたちにも伝染。子ども同士もお互いを誉めることが増えてきた。
そして、この育休取得の経験はその後の子どもたちとの関係や復帰後の仕事への取り組み方にも大きな影響を与えた。子どもたちとの関係でいえば、とにかく私が仕事から帰ると我先にとばかり4人の子が今日会ったことを報告してくれるようになった。聞き分けるのが大変ではあるが、とても幸せな瞬間だ。一方、仕事のことでいえば、復帰と同時に転勤となり、妻の実家のある神奈川県に転勤、在住することに。これまでと同じ営業所勤務ではあるものの親族のサポートが得やすい状況にしてもらえた。また、私自身の中でもこれまで以上に最小時間で最大効果を上げるための仕事のしかたを意識するようになった。その結果、平日でも週2、3日は育休中と同様、子どもたちと一緒に風呂に入り、寝る前に読み聞かせをし、寝かしつけることができている。また、これまた育休中から続けている朝食作りも、復帰後半年を経た今でも続けている。
こうした経験から、今後男性の育休取得者が増えていくことは、単に女性に過度な負担を強いる現在の子育て事情を改善していくという側面だけでなく、生産性の高い仕事を目指す社員が増えるという意味で企業にとっても大きなメリットがあることのように感じる。各企業が制度面、環境面で男性が育休取得しやすいよう変えていく必要があるのはもちろんだが、父親たちも勇気を持って一歩踏み出してみれば世界が変わることを体感してほしい。