育児は二人なら楽しい。赤ん坊の百面相に笑う毎日。日々のささやかな感動を妻と共有
- 執筆者の横顔:
- (1)会社員、(2)、(3)30代後半、(4)30代後半、(5)本人・妻・子1人(男児1人) 、(6)平成20年7月~8月(2ヵ月間)
育父休暇
宮下 拓さん
「言い訳」は、いろいろ考えました。父親の育児休業は、所属部署では初のケースでした。
今の勤務地に私も妻も身内がいないこと。妻が出産後も仕事(文筆業)の締め切りを抱えており、私が家事を担わないと乗り切れないこと。妻の実家が自営業で多忙なため、里帰り出産はしないこと。
出産予定日の2ヵ月前に当たる4月、部長に「育児休業取得をお許しください」と、事情を説明しながら切り出しました。少し間をおいて「分かった。なんとかする」ときっぱりとした承諾を得て、どっと肩の力が抜けました。
ローテーション職場なので、一人の戦線離脱はそのまま同僚の負担増を意味します。上役からは「この経験、きっと今後の仕事に生きるから」と励ましてもらいましたが、職場の厚意に対し、やはり申し訳なさと後ろめたさがあります。復帰後の今でも、そうです。
会社では、第二子出生時に育休取得したケースは他の職場でありましたが、第一子となるとそれまで前例がありませんでした。複数の子を持つ先輩や同僚を差し置いて、一人だけの育児のために休業をもらうのは甘えではないか。そう悩みましたが、妻を独り放っておけるはずもありません。腹をくくりました。
人事部には、後押ししてもらいました。妻は「1ヵ月あれば慣れると思う」と言っていたのですが、担当の方から「奥さんが専業主婦でも産休中でも、お父さんは産後8週間までは育休が取れます。無給ですが」と説明を受けました。無給という点には、ためらいました。でも、生まれたての我が子と過ごす時間はプライスレスだよなあ。そう思い切ることにして、制度いっぱい休むことになりました。
育休中、妻は1~3時間おきの授乳、おむつ替えでふらふら。産後の体調回復に専念させるため、私が家事全般を担当しました。朝食の準備、後片付け。洗濯、掃除、昼食の準備。犬の散歩、買い物、夕食の準備。子の沐浴。一日があっという間に過ぎていきます。
泣けば抱いてあやし、しかし新米の父母は抱き方が下手なので、一層泣かれる始末。おむつ替えは「どひゃー」の連続。とはいえ、妻と二人いるというのは幸いなことで、片方が疲れてキレないように、意識して笑顔で交代しながら、ペースをつかんでいきました。
実際、これで親子一対一だったら、泣き声に滅入り、自分の食事もままならず、孤立感とひもじさとで心身とも相当に追いつめられるはずだ、と思います。育児を片親の牢獄にしないためにも、支える手が不可欠でしょう。育児は二人なら楽しい。一人だと過酷です。
近所の育児教室で、よそのお母さんから「パパが抱っこしても泣かないのね」と言われました。
生まれてからずっと抱っこし続けて、下手なりに子が慣れてくれました。育休をとらなかったら、同じように泣かれて「俺じゃだめだ。ママお願い」となったかもしれません。おむつ替えも同じことでしょう。
母子の二人三脚に父親が途中から参加しようにも、すぐに足並みがそろうわけはない。だから父親は早々に自信を失い、育児から脱落してきたのでしょう。ヨーイドンから三人四脚なら、パパだって、抱っこもおむつも、ママと同じように普通にやれるのになあ、と思いました。
数十グラム増減しては一喜一憂し、へその緒が取れたことに驚き、夜泣きで途方に暮れ、ベビーバスでの排泄に慌て、あくび、くしゃみなどに笑う毎日。日々ささやかな感動を妻と共有できた2ヵ月間でした。
新聞のコラムで、パパが育児を「手伝う」と言うのは許せない、と。「二人の仕事でしょ」というわけです。育児休業は、何もできない男をパパとして養成する「育父」期間でした。
多くの男性が、言い訳抜きで「子どもが生まれました。忙しいんで家にこもります!」と職場で宣言し、人生の至福の時を気楽に手に入れられたらいいのになあ、と思います。
復帰後の仕事の“リハビリ”は、やっぱりキツイですが。