平成21年11月30日

内閣府仕事と生活の調和推進室 発行
Office for Work-Life Balance, Cabinet Office, Government Of Japan


「婚活」時代における働き方と結婚について、ジャーナリストの白河桃子(しらかわ・とうこ)氏にお話を伺いました。

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●「婚活」とは何か
  「婚活」は「結婚活動」の略で、就活(就職活動)を模した言葉です。家族社会学者の山田昌弘中央大学教授と昨年3月に出版した『「婚活」時代』により、認知されるようになりました。
  「1990年代生まれの若者の4人に1人が、50歳の時点で未婚である」という政府が出した衝撃の予想結果がありますが、結婚したくない人が増えたのでも、結婚・出産に興味のない女性が増えたわけでもありません。アンケートでは未婚者の8、9割以上が「結婚したい、子どもを持ちたい」と答えているのに、それができない様々な事情を現代の日本は抱えています。
●職場結婚の衰退
  かつての日本には、ただ乗っているだけでベルトコンベアのように自動的に結婚できる構図がありました。未婚者がいれば周囲が背中を押してくれ、企業にも独身社員を結婚へ誘導するシステムがあり、お見合いや職場恋愛などで多くの男女が結婚しました。中でも職場は「囲い込まれた場所・時間の共有・目的の共有」という、結婚に至る出会いに必要な三つの条件が揃った理想的な場でした。
  ところが、1980年代に入ると結婚に至るきっかけは自由な恋愛が中心になります。出会いの格差が生まれ、結婚年齢がばらつき始めたのもこの頃です。
  これに追い打ちをかけたのが、1990年代のバブル崩壊でしょう。就職氷河期が始まり、会社という同じ囲いの中に大量の男女が入るようなことはなくなります。特に女性の一般職は減り、男性社員の「お嫁さん候補」が減少。若年層の非正規雇用が増え、経済的に安定した結婚生活を営める人が極端に減り、職場結婚は衰退の道をたどったのです。
●「婚活」時代の到来
  お見合いや社内結婚など、日本人を結婚させていたシステムの崩壊によって、当たり前にできていた結婚がそうではなくなりました。結婚しにくく、結婚したくてもできない……「『婚活』しなければ結婚できない時代」を迎えたのです。なんとなく結婚できていた時代は終わり、より良い結婚をするため、意識的に活動する必要が出てきました。
  婚活が取り上げられるようになった一番の理由は、昨秋のリーマン・ショックだと思います。それ以降、多くの女性が安定した結婚を求め、ブームが加熱。女性誌の特集やドラマに「婚活」というタイトルが並びました。
  「婚活」という言葉がひとり歩きを始め、我々の意図が誤解され始めたため、山田先生と私で定義を決めました。「婚活」とは「結婚を目的とし、自分を磨いたり、結婚相手を探すために意識的に活動すること。」もっと外へ出よう、自ら動こうという意味です。また、「従来型の昭和的結婚観」からの脱却こそが重要であると説明しています。
●ブームのメリット、デメリット
  ここで婚活ブームの弊害に触れておきましょう。女性は本来、自分磨きやライフプランを立てることには熱心なのですが、結婚に関しては「いつか運命の人が現れる」と夢見がちです。しかし、結婚にも努力や競争が必要なことが分かると、ストレスがどんどん溜まっていきます。また、リーマン・ショック後の厳しい経済状況により、婚活が条件闘争の場になってしまいました。男性たちは女性たちの厳しい値踏みの視線に臆してしまい、婚活の場に出ていきづらくなる。女性はというと、条件が先に立てば立つほど結婚できなくなってしまいます。特に、「収入」という条件にこだわると、相手となる男性の数は激減します。
  一方、婚活ブームのメリットですが、これまで女性は、40代になると結婚を諦めたふうに装っていました。でも今は、いくつになっても「結婚したい!」と堂々と宣言できる。生涯婚活時代の到来です。
  ある女性は「結婚できないのは自分のせいだと思っていたけれど、環境の変化のせいだと分かりました」と話していました。自分が、周りの人よりも劣っているのではと悩んでいたが、そうではなかった。自己否定せずに済む効果もあったようです。
●結婚に必要な三つ
  結婚に至るプロセスには、大きく分けて「出会い・相互選択・結婚の選択」の三つがあります。まず、「出会い」については、職場結婚の衰退により、自力で活動しなければ出会うことができなくなったことは先程述べた通りです。そのため、出会いの数に格差が生じています。また、「相互選択」とは、お互いがお互いを選んで恋愛すること。昔は出会いが少なかったから、出会った相手が素敵に見えた。職場や、相手が見つからなかった場合のセーフティネットとしてのお見合いがありましたが、ここに来て男女とも好みの基準が厳しくなっています。最後は「結婚の選択」、つまり結婚というハードルを越えることです。以前は「恋愛=結婚」でしたが、現在は恋愛と結婚が分離し、「一緒にいるためには結婚しなければ」という発想ではなくなっています。
  夫婦の役割分担をどうするかという問題も、結婚の決断を難しくしています。かつての「男は仕事、女は家事・育児メイン」のように、今は結婚後のライフスタイルは画一的ではありません。結婚の決断には、そのすり合わせが必要不可欠になってきています。
●現実とのギャップ
  2002年の山田先生の調査によると、東京では、未婚女性(25~34歳)の40%が、年収が600万円以上ある男性と結婚したいと思っています。これに対し、未婚男性(25~34歳)のうち、実際に年収が600万円以上なのはわずか3.5%でした。
  以前、丸の内のOLにアンケートを取ったところ、彼女たちの多くが結婚相手に自分の2倍の年収を求めていることが明らかになり、私はこれを「年収2倍の法則」と名付けました。子どもを産み、子育ての間は仕事をしないという前提のもと、生活水準を下げるのではなく、その分は夫に稼いでもらう。女性の意識は相変わらずM字型就労となっており、「出産したら就業継続は厳しい、仕事と子育ての両立は難しい」と考えています。いくら世の中が仕事と子育ての両立支援を謳っても、多くの女性は、未だに高い壁を感じているのです。
●女性の働き方の変化
  男女雇用機会均等法施行以前、お嫁さん候補として入社した女性たちにとって、結婚は永久就職であり、結婚したら会社を辞めるスタイルが一般的でした。均等法により女性総合職が誕生しますが、この第一期均等法世代で現在も生き残っているのは、未婚か、子どものいない既婚者です。その下の就職氷河期世代は、なんといっても正社員になれない男女が多く、たとえ正社員になっても「長くは続けられない、結婚や出産とは両立できない」と考えています。派遣、一般職、総合職……どんな職種であれ、「いずれ結婚する=夫が家計を担う」ことを前提に働いています。
  30歳未満の世代はというと、彼女たちは、先輩のそのような苦労を見ているためか、「とにかく早く結婚して、早く産んでしまいたい」という早婚・早産志向です。また、高学歴でも一般職やエリア総合職を希望する女性が多く、さらには、仕事か結婚・子どもかなら、迷わず結婚・子どもを選ぶ専業主婦志向が特徴です(ちなみに、この世代では、男性でも3割が一般職を希望しています)。
  働く女性が増えるほど、子どもが増えるのが通常の先進国のケースですが、日本は女性の社会進出が未だに十分とは言えない珍しい例と言えます。これは、一般的に、家庭の財布を妻が預かっており、自分で働いてお金を得る必要がないということや、多くの女性がワーク・ライフ・バランスを重視して働きたいと思っても、そんな生ぬるい働き方では企業で生き残れないという現実に原因があるのだと思います。
●男性の意識の変化
  男性の意識は、ここ10年で大きく変わりました。自分の収入だけでは豊かな生活を築けないと自覚し、専業主婦を望む声が減ったのです。最近では、妻に仕事を続けて欲しいと思っている未婚男性のほうが多いと聞きます。但し、子育てに関しては「自分も手伝うけれど、やはり子どもには母親が一番」と考えています。自分たちが育ってきた経験から子育ては母親がメインと考えています。35歳以下になると、育休を取りたいと考える男性も増えていますが、企業風土の問題などもあり、仕事と子育ての両立は女性以上に難しいようです。
●意識の変換、そして企業にできること
  婚活に一番大切なのは、意識改革です。現在、多くの夫婦のあり方が、男だけが働くというこれまでの「片働き昭和型」ではなく、妻もパート等で働くという「新専業主婦型」になっています。そして、今後、保育園の整備など、女性の就業継続が可能になるような社会の制度が整えば、フランスなどのような「共働き男女共同参画型」にシフトするはずなのですが、日本は今、この手前に留まっています。「共働き男女共同参画型」、つまり、女性も就業継続できる環境にまでたどり着けば、「年収2倍の法則」を結婚の条件とすることもなくなり、結婚したくてもできない状況から抜け出せるのではないでしょうか。
  企業は、ワーク・ライフ・バランスの重要性を改めて見直す必要があると思います。調べによると、婚活世代の4人に1人は週に60時間以上働いているとか。家と会社の往復だけで結婚できる時代は終わりました。出会いのチャンスを提供するために、社員にある程度の自由な時間を確保するとともに、女性の就業継続を可能にし、細く長く働き続けたいという彼女たちの決意をサポートしていくことが重要です。働き方を見直し、男性も家庭への参画が可能になれば、働く女性の心地よいパートナーとなれる男性も出てくるはずです。そして、そうなれば、やがて晩婚化・非婚化は解消され、ゆくゆくは少子化を止めることにつながっていくのではないでしょうか。

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Q&A

●お話を伺って、ワーク・ライフ・バランスの重要性を感じました。ですが、たとえ完璧な環境が整ったとしても、楽な方を選ぶ玉の輿志向の女性たちも多いのではと思います。
○(白河氏)
  初めは楽な方を選ぶかもしれませんが、実際に、それでは結婚できません。一通り婚活をしても結婚できなければ、考え方が変わるのではと思います。婚活してみないと現実に突き当たらない。婚活に目覚めた女性ほど「相手が好きだから、年収が低くても、その分私が働こう」という結論に達するのです。女性が「自分も家計に責任を持つ」と自覚するようになれば、今のように経済重視で男性を選ぶことはなくなるでしょうね。

●一方で、問題は男性にあるのではという気もします。技術系の男性などは、地方に工場や研究所があるため、出会いのチャンスがありません。その上、閉鎖された環境にいるせいか非常に消極的です。男性側の意識や気づきを促す良い方法があれば教えてください。
○(白河氏)
  男性の意識を変えることは、実は一番難しいんです。企業として「早く結婚しろ、結婚しないと一人前になれない」とは言えませんしね。例えば、地域のボランティア活動に巻き込んでみるのはどうでしょう。男性はプライドが高く、「婚活」という題目がつくことを嫌うので、なるべく分かりにくい形で参加してもらった方がいいと思います。

●企業にも、以前は趣味の集まりがありましたが……。
○(白河氏)
  職場に部活やサークルを作るのは、悪くないと思いますね。今はほとんど残っていませんが、企業でマッチメーカー的な機能を復活させるのも効果的かと。

●「結婚=ゴール」ではなく、その先、どうやって自分たちの人生を充実させるかに大きな目的があると思うのですが、残念ながら、そこがあまり浸透していないようにも感じます。結婚後の生活のメリットや幸福感をアピールすることが、結婚願望につながるのではないでしょうか。
○(白河氏)
  女性が「結婚し、子どもを持つ」という明確なビジョンを持っているのに対して、男性は、結婚の目的が空洞化しているように思います。
  ですから、「奥さんも働き、旦那さんも子育てをし、収入が2倍になって楽しく暮らしている」というようなケースがあれば、セミナーなどで接する機会を作っても良いのではないでしょうか。
  海外では、家族と一緒に参加するパーティが多いですよね。会社で働いている顔しか知らないというのは、ワーク・ライフ・バランスとしては不十分だという気がするので、仕事仲間の家族の顔が見えるような交流の場をもっと増やすべきでは。子どもや奥さんの写真をオフィスのデスクに飾ることも、小さなことだけれど大切ですね。

●今のロールモデルである30~40代では、育児をしながら働き続ける人も多いけれど、キャリアはそれほど恵まれているわけではないため、その下の世代が、自身の将来に不安を抱いているように感じます。どのような支援をすれば、安心して「仕事を続けよう」と思ってもらえますか。
○(白河氏)
  確かに、ロールモデルの不在は大きな問題です。やはり先輩たちを見て自分の将来がイメージできると、安心して働けるのではと思います。
  「できちゃった婚」や「週末婚」が増えていますが、今後は、社員が突然シングルマザーになるというようなケースも増えてくると思います。そういう場面に直面したら、人事の人には、彼女たちが安心して働き続けられるよう腰を据えてかかって欲しいですね。制度はそうやって変わっていくものですし、彼女たちが排除されずに働き続けられるよう、ぜひとも慎重に対応して頂きたいと思います。

●都市では中高一貫の男子校や女子校が増えていますが、子どもの頃の恋愛経験が少ないことも晩婚化・非婚化の一因では。
○(白河氏)
  男性は特に、問題視されていますね。中高一貫の男子校でそのまま大学へ進み、男ばかりの環境で生きてきた人の多くが、生身の女性に声をかけることに非常に高いハードルを感じています。勇気を出してお見合いパーティに出てくる人もいますが、結局は壁の花になってしまう。山田先生は「彼らにはコミュニケーションから教えるべき」と、常におっしゃっています。
  また、日本は男女の恋愛のスタートが非常に遅い。女性の場合はスタートが遅いと出産の限界年齢に間に合わなくなってしまうので、注意しなければなりません。欧米では時間をかけて慎重に配偶者を探します。時間をかけて配偶者を選ぶのにもかかわらず子どもを産めるのは、やはり恋愛のスタートが早いからでしょう。

●たいへん包括的で説得力のあるお話でした。本日はありがとうございました。
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