内閣府仕事と生活の調和推進室 発行
Office for Work-Life Balance, Cabinet Office, Government Of Japan
●1200万人のボランティア
●有給ではない特別な休暇を
●勤マル事業の推進
●パートタイム市民からフルタイム市民へ
●人間力の再生を目指して
●2分に1人への挑戦
●社会的使命
●ヒューマンチェーンの充実
●競技力向上=救助力向上
●自分の身は自分で守る
●ライフセーバーのいらない社会
Q&A
●「社会人のボランティアで、ライフセービングは難しいのでは」と思っていましたが、今のお話を聞いて、レスキュー活動以外にも広がりを持ち、地域社会の活性化にも貢献なさっていることが分かりました。実際には、どのような方々が仕事をしながら活動をしておられますか。
○(小峯氏)
一般的なイメージだと体育会系の男性が多いように思われるでしょうが、実はライフセーバーの半数が女性です。最近では、50~60代のシニアの参加者も増えています。ライフセービングの活動は人間教育にも非常に有用な手段です。そういった意味では、どんな場所でも困っている人に手を差し伸べられる自己研鑽の場でありたいと考えています。
●「将来は、ライフセーバーのいらない社会を」とのことですが、具体的にどんな社会を想定していらっしゃいますか。
○(小峯氏)
例えば、講演で「あなたはこれまで、どのくらいレスキューしましたか?」という質問が出たとします。日本人は胸を張って「数えきれないくらい多くの救助をしました」と答え、それが賞賛に値するのでしょうが、諸外国では評価されません。なぜなら、たくさんのレスキューをしてきたということは、事故を未然に防げなかったということ。ですから、救助の回数の多いライフセーバーは尊敬されず、むしろ回数の少ないほうが苦しみを与えないライフセーバーであり、真のライフセーバーなのです。このように、日本と海外では生命の尊厳についての考え方がまるで違います。
オーストラリアでは、ビーチがライフスタイルの中に組み込まれていることもあり、高齢者のライフセーバーが増えています。自らの人生の尊厳として、自分が社会の役に立っていることを表現し続けたいのだとか。日本もこういった思想が広がり、ごく自然に助け合いのできる社会になればと思います。
●特別な休暇制度を導入している企業の例を、他にもご存じでしたら教えてください。
○(大畠氏)
ある会社の「夏休み1か月制度」は、大胆な休暇制度として注目を集めています。1か月休みがあるいうことは、残りの11か月間で12か月分の仕事をするということですから、計画を立て、関係機関への早期通知などを徹底しているようです。 年明けの1月に社員がくじを引いて休みを決める「がんばれ休暇」や「団らん休暇」「ファミリーサポート休暇」など、他にもたくさんありますが、いずれも(休みが飛び石だと仕事がはかどらないので)できるだけ短い時間で集中して仕事をし、生産性を上げたいと考えているようです。
●顧客から携帯電話に電話がかかってくることが多いので、特に営業職では長期休暇を取ることが難しいそうです。長期休暇の取得をお客さまに理解していただくためには、どうすれば良いでしょうか。
○(大畠氏)
自分の机の引出しに書類をしまうことをせず、情報を共有化し、皆が閲覧・利用できるようにするといった仕組みづくりが必要だと思います。誰かが休んでいる中で仕事をこなすには、他の人の仕事を把握し、それを代行できる力がなければいけませんから、仕事のやり方を見直すことにもなるのでは。
また、システムの構築はもちろんのこと、トップの考え方も大切でしょう。社長が胸を張って「何がなんでもやり遂げる!」と宣言し、自ら進んで休暇を取るような企業は、環境整備にも積極的ですね。
●休暇を取得するとそれだけ平日の残業時間が増えてしまうので「平日はできるだけ早く帰り、土・日だけ休む」と考え方もあるようですが……。
○(大畠氏)
以前、ダラダラ残業をなくして仕事と会社の活性化を図るワークショップを開催し、残業が増える原因について考えたところ「上司がずっといるから帰りづらい」「昼間は雑用が多く、夜にならないと自分の仕事ができない」などの意見が多く出ました。解決するためには、やはりきちんとした計画を立てて仕事をすることだと思います。 労働時間が長ければ仕事の効率が上がるかというと、そうではないし、そんなことを続けていては体がもちません。1か月分の仕事が31日で終わる月もあれば、30日、28日で終わる月もある……効率よく仕事するためにどうしたら良いかを、社員が一丸となって真剣に考え、意識の改革をしていくべきではないでしょうか。
ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」をただ遊んで過ごすのではなく、そこでさまざまなことを学び、吸収し、人脈を広げていく。そこで得た人脈が、もしかしたら会社にフィードバックされることもあるかもしれません。そういう発想を持つことも大切ですよ。
●お二人にお聞きします。企業人がボランティアを始めるきっかけやコツを教えてください。入りやすさや続けやすさのポイントがありましたら、併せてお願いします。
○(大畠氏)
好きなこと・楽しいことから始めましょう。そして何より大切なのは、持続させることです。
まず、ボランティアは難しいことではないと考えてください。話下手な人であれば、認知症のお年寄りの昔話を聞くことや、子どもたちの登下校を見守り、笑顔を絶やさないことも立派なボランティアです。
ボランティア・市民活動に関しては、お住まいの地域の社会福祉協議会のボランティアセンターにたくさんの情報が寄せられています。
○(小峯氏)
相手からの感謝の言葉を聞いた時に、自分が役に立っていると感じ、満たされるから続けられるのだと思います。これまでは自らが求めるものだけを追えば良かったけれど、これからは他者の求めに対し、自分がどのように役にたつか、そのためにはさらに多くの事を学び自分のレベルを上げて行く。そのことで、仕事だけでは得られない付加価値が生まれ、自分自身に誇りを持つようになるでしょう。
ライフセービングは、水難救助にとどまらない、生命活動に密着した社会貢献活動です。快適で安全な地域生活に貢献し、他者から感謝されることが、やりがい・生きがいにつながるのだと思います。
●ボランティアというと、無収入というイメージが強いせいか「ボランティア活動をするよりは、セカンドジョブをしてその分収入を得て、社会に貢献していく」という考え方もあるように思います。それについてはいかがですか。
○(大畠氏)
私どもは「働きたい時に、働きたい場所で、自分に合った仕事ができる」ことが真のワーク・ライフ・バランスだと考えています。人間関係が希薄だといわれる現代社会において、ボランティア活動を通じて地域社会と積極的に関わり、人との結びつきを深めていく。自分を大切にし、互いの個性を尊重しながら、困った時には助け合うことが自然にできる社会を目指していけば、人生が楽しくなり、人間らしく生きていけるのでは。会社にいて、与えられた時間内で仕事をこなしているだけでは、ワーク・ライフ・バランスとはいえないと思います。
○(小峯氏)
ボランティア活動を途中でやめていった人も多くいますから、お気持ちはなんとなく分かります。自分の足下を見つめた時に、不安になるのでしょうね。家族が「他人を助ける前に、私たちを助けて!」と反対するケースもあると聞きます。
「ボランティアとは志願である」と、私は教えられてきました。応急手当を「する」のではなく、これを「させていただく」にすると、感謝の気持ちが生まれ、自分自身が満たされる。きれいごとかもしれませんが、それこそが「かけがえのない報酬」ですし、そのように考えることでボランティア活動は成り立っているのだと思います。
30年間の活動の中で、ライフセービングは生命を救うだけでなく、笑顔をつくりだしていることに気がつきました。安全・安心な所には、必ず笑顔が生まれます。これからも「ありがとう」という言葉を通じて、全国にたくさんの笑顔をつくっていければと思います。
今回のテーマの発端は「余暇に何をするか」。そこから「ボランティア」という発想だったのですが、お二人からはさらに深い、人生に不可欠なものとして貴重なお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。