内閣府仕事と生活の調和推進室
Office for Work-Life Balance, Cabinet Office, Government Of Japan
■□ カエル! ジャパン通信 Vol.15 □■
今回のテーマは、『若者のWLB』です。
バブル崩壊以降、度重なる経済情勢の悪化や少子高齢化の進展など、日本社会は様々な問題に直面しています。そのような中、若い世代を取巻く環境は厳しさを増し、就職難や収入の減少、遠のく結婚など、困難な現実に直面しています。
そこで今月は、若者のワーク・ライフ・バランスに関わる情報をご紹介します。
≪目次≫
山田 昌弘 氏(中央大学文学部教授) 「格差社会を生きる若者のWLB視点」
内閣府 2009年 「アジア地域(韓国、シンガポール、日本)における少子化社会対策の比較調査研究」他
コミュニケーションを振り返る
事業主の方への給付金のご案内【厚生労働省】他
★≪有識者インタビュー Vol.7≫
「格差社会を生きる若者のWLB視点」
近年、アルバイトや契約社員など非正規の雇用形態が一般化し、世の中の格差が拡大しています。こうした変化が最近の若者の就活や結婚、ワーク・ライフ・バランスの進展に影響を与えているとも言われています。
そこで、今回は格差社会を生きる若者のワーク・ライフ・バランスについてお話をお伺いしました。
●拡大傾向にある格差社会
「日本は少し危機感を持って社会の改革に取り組む必要があるのではないでしょうか。先日、国際結婚を調査するため、香港などのアジア諸国を訪れる機会がありました。調査をしたアジア諸国では、フルタイムのメイドを月3万円で雇用することができます。そのため、現地で結婚した日本人女性の多くは、メイドを雇っています。アメリカの高所得者夫婦でも、共働きならベビーシッターを雇っています。一方、ヨーロッパでは、ワーク・ライフ・バランスが進展し、長時間労働がなく、保育所や育児休業など社会保障制度が整っています。このようなアジアやアメリカ、そして、ヨーロッパの状況と比較すると、日本でフルタイムで働く女性は、長時間労働に晒され、一方、非正規の女性は社会保障制度が手薄いのです。つまり、どちらに転んでも踏んだり蹴ったりの状態なのではないでしょうか。」
「日本で35歳以上45歳までの親と同居している未婚者、つまり「中年パラサイト」が260万人に増えました。そのうちの1割が失業者、また1割が非正規労働者で、その多くの両親が60歳以上です。この実態から「年金パラサイト」とも言うべき親の年金をあてに生活をしている30~40代の未婚者が、50万人程いることが予測されます。この問題は将来大きくなりそうです。これも、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランスが進展していない結果なのです。」
●二極化する労働
「アメリカの経済学者ロバート・ライシュは、今の社会は働く人に圧力がかかる社会であり、生産性の高い人と低い人に労働が分かれ不安定になっていると述べています。知的労働・創造的労働が増える反面、機械に使われるような労働も増えています。検品、配送、清掃などの機械ではできないが生産性の低い単純労働等がそれに当たります。このような単純労働は体力的、精神的に辛く、とあるオートメーション化が進んだパン工場でアルバイトをした学生から、あまりに単調で2日で辞めてしまったという話を聞いたこともあります。」
「グローバル化による競争激化のため、企業はコスト削減を強いられています。生産性の低い単純労働には高い賃金が与えられず、そのような労働の機会しか持てない人は、長時間不規則に働かなければ自立した生活が成り立たないといった状況です。家族と同居していればなんとかなりますが、一人暮らしのフリーターなどは生活のため、「朝は魚河岸で働いた後に少し寝て、夜はレストランで働く」といった「ダブルワーク」をしている人を調査したこともあります。また自営業の人も「仕事を断ったら次の仕事が来ないかも知れない」という不安から過剰労働に陥りがちです。このような人たちは休みを取ることが難しく、過酷な労働環境におかれていると言えます。」
●便利なサービスを支える労働者
「次はサービス労働の問題を考えてみましょう。サービス労働の問題のポイントは、消費者と労働者が同時に存在しているということです。社会が便利になり、マッサージから配送、修理、配膳また保育に至るまで、企業は24時間消費者のニーズに応えられるよう従業員を働かせる体制になってきています。例えば、パソコンの電話相談サービスは、夜中の12時であっても質問に丁寧に答えてくれます。また、大学図書館も最近ではアルバイトを雇って、夜9時頃まで利用することが可能です。このような仕事をしている人は一体いつ寝ているのでしょうか。ワーク・ライフ・バランスを達成することはとても難しいように思われます。製造業や会社の事務など、普通は昼間だけ働けば良い仕事にのみ対して、ワーク・ライフ・バランスが適用される社会のように思われます。」
★≪統計・調査トピックス≫
今回のテーマである「若者のWLB」に関連した調査を紹介します。
◎「アジア地域(韓国、シンガポール、日本)における少子化社会対策の比較調査研究」内閣府 2009年
結婚に対する考え方について、「結婚は必ずするべきだ」と「結婚はした方がよい」と回答した人の合計は調査対象の3カ国で7割以上を占め、結婚に対して肯定的な傾向が見られました。ただし、「結婚は必ずすべきだ」という意見は、国によって違いがあり、日本では7.6%と1割に満たないのに対し、韓国では、38.7%、シンガポールでは44.6%となっています。また、「結婚・同棲・恋人は必ずしも必要ではない」が韓国では6.2%、シンガポールでは10.6%なのに対し、日本では18.9%と、3カ国中最も高い割合となっています。
未婚者に、現在結婚していない理由を3つまでの複数回答で聞いたところ、「適当な相手にまだめぐり会わないから」が、日本では48.9%、韓国では45.6%、シンガポールでは43.2%で、3カ国とも4割以上を占めています。日本で次に多いのが「経済的に余裕がないから」で、46.7%の人が挙げていました。韓国では54.1%、シンガポールでも43.2%の人が「結婚するにはまだ若すぎるから」と回答している一方で、日本では24.6%と比較的低いことがわかりました。また、「今は仕事(又は学業)に打ち込みたいから」が韓国では40.7%、シンガポールでも38.0%であるのに対し、日本では24.3%と同様に低い傾向がみられます。
欲しい子どもの数より実際の子どもの数が少ない人に、今よりも子供を増やしたいと思うか聞いたところ、「今よりも子どもは増やさない、又は、増やせない」という人が日本では46.7%、韓国では47.3%、シンガポールでは20.6%いることがわかりました。「希望する子ども数になるまでは増やさない、又は、増やせない」、「今よりも子どもは増やさない、又は、増やせない」と回答した人に複数回答で理由を聞いたところ、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が日本では73.6%、韓国では77.8%、シンガポールでは57.3%とそれぞれ一番に挙げられていました。その次に3カ国共に多い理由は「自分又は配偶者が高年齢であるから」で、日本では28.2%、韓国では32.6%、シンガポールでは24.0%という結果になりました。
* 調査対象 :日本・韓国・シンガポールの20歳~49歳の男女、各国1,000人
https://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa20/hikaku/pdf/b-1.pdf
◎「平成21年若年者雇用実態調査結果」厚生労働省 2010年
全労働者に占める正社員以外の労働者の割合は36.4%でした。特に宿泊業,飲食サービス業ではその割合が高く、宿泊業,飲食サービス業で働く66.1%が正社員以外の労働者であることがわかりました。また、宿泊業,飲食サービス業で働く正社員以外の労働者の約半数は若年労働者(15~34歳までの労働者)でした。
若年労働者がいる事業所のうち、新規学卒者、また中途採用者の若年正社員に対してOFF-JTによる育成を行っている事業所はそれぞれ27.5%、21.4% であるのに対して、正社員以外の若年労働者に対してOFF-JTによる研修を行っている事業所は12.7%でした。他の育成方法では「ジョブローテーション」と「自己啓発の支援」で同様の傾向が見られます。新規学卒者、中途採用者の若年正社員に対して自己啓発への支援を行っている事業所はそれぞれ33.1%、30.4%である一方で、正社員以外の若年労働者に対して自己啓発への支援が行われている事業所は18.8%に留まりました。
在学していない若年労働者のうち、正社員以外の労働者として働く人の割合は31.7%でした。特に女性においては43.2%が正社員以外の労働者として働いていることがわかりました。また、最終卒業学校別にみると、大学は17.3%、高校は43.7%、中学は66.5%と、就学期間が短い程、正社員以外の労働者の割合が高い傾向が見られました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/young/h21/index.html
◎「平成22年度出生に関する統計」厚生労働省 2010年
妻の平均初婚年齢は、昭和61年は25.6歳、平成9年は26.6歳、平成15年は27.6歳でした。平成21年には28.6歳で、昭和50年以降上昇傾向のまま推移し、晩婚化が進んでいます。母の出生時平均年齢も同様の傾向が見られ、平成6年には第2子の出生時平均年齢が29.7歳でしたが、平成21年には第1子が29.7歳でこの15年間で約1人分の差が生じており、晩婚化のみならず晩産化が進んでいることがわかりました。
30歳時点で子を産んでいる女性の割合をみると、昭和28年生まれでは82.0%でしたが、昭和41年生まれでは64.8%となり、昭和54年生まれ(平成21年時点で30歳)では46.1%まで減少しています。ただし、この減少は平成19年頃から46%前後で横ばい・下げ止まり傾向もみられることから、今後の推移が注目されます。また、40歳において子を生んでいる女性の割合をみると、昭和28年生まれは89.8%でしたが、昭和44年生まれでは73.0%となっており、世代を追うごとに減少傾向にあります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/index.html
★≪コラム≫
1年のコミュニケーションを振り返る
1年を振り返ると、多くの人々とのさまざまな関わりがあったことと思います。
中でも、仕事を持っておられる方々にとっては、職場でのコミュニケーションは、日々の生活において大きな比重を占めているのではないでしょうか。
ある調査によれば、Eメールを上司との人間関係構築のための有効な手段として考える今年の新入社員は3割に満たないそうで、昨年に比べると、1割以上も低下しているそうです。
Eメールは、時間を選ばないことや、電子ファイルの添付などにより一度に大量の情報を伝えられることなどから、有効な情報伝達ツールの1つとして用いられてきました。一方で、Eメールでは、声の高低や速度、ジェスチャーや表情などの伝達が難しくなります。
そして、議論を交わすには不向きであったり、文字だけによる情報から誤解が生じることがあったりします。
実際のコミュニケーション場面においては、メッセージの発信者の「思い」が果たす役割は大きく、喜怒哀楽などの感情の表出などにより、単なる文字だけによる情報を補いながら人間関係を適切な方向に導くことも可能になるでしょう。格差社会とも言われる中、場面に応じた適切なコミュニケーションで、来る年も職場や生活の場での良好な信頼関係作りがなされることを願っています。
★≪最新情報≫
◇男女共同参画基本計画の変更について【内閣府】
第3次男女共同参画基本計画を12月17日に閣議決定しました。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/3rd/index.html
◇平成23年度均等・両立推進企業表彰【厚生労働省】
ポジティブ・アクションを推進している企業、ファミリー・フレンドリーな企業を表彰します。
◇事業主の方への給付金のご案内【厚生労働省】
雇用安定のための給付金や、雇用調整のための助成金についてご案内しています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
◇若者雇用対策【厚生労働省】
3年以内既卒者を対象とした奨励金や青少年雇用機会確保指針など、新卒者・既卒者を支援する厚生労働省の施策についてご案内しています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2.html
◇有期契約労働者の雇用管理の改善に向けて【厚生労働省】
有期契約労働者の雇用管理の改善が図られるよう、労働関係法令等を踏まえて、事業主の皆様が講ずべき必要な事項、またよりよい雇用管理の実施を図るために配慮することが望ましい項目をまとめたガイドラインです。
◇従業員が101人から300人の事業主の方へ 一般事業主行動計画の策定・届出、公表・周知が義務となります!!【厚生労働省】
平成23年4月1日から従業員101人以上の企業に義務づけられる、「一般事業主行動計画」の策定等について、説明しています。
◇休暇取得の分散化に関する特別世論調査【内閣府】
休暇取得の分散化に関して、全国の20歳以上3,000人に意識調査を行った結果を公表しています。
https://www8.cao.go.jp/survey/tokubetu/h22/h22-bunsan.pdf
◇月刊レポート「DIO12月号」【連合総研】
ハラスメントと職場風土について特集しています。
http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio255.pdf [PDF形式:3092.48KB]
◇シンポジウム 働く女性の現状とこれからを考える~非正規化する働き方のなかで~【女性と仕事の未来館】
開催日時:2011年1月22日(土)13:00~17:00
開催場所:女性と仕事の未来館 4階ホール
取組のきっかけや実績、効果など、ひと工夫した事例、ユニークな事例を含めてお寄せください。
いただいた事例は、仕事と生活の調和推進室において内容を確認させていただき、今後、メールマガジン等でご紹介させていただきます。
この機会に、取組を全国に向けてアピールしてみませんか?
また、紹介時期のご指定についてはお受けできませんので、あらかじめご了承ください。
https://form.cao.go.jp/wlb/opinion-0001.html
※ご記入の際は、冒頭に必ず【取組事例応募】と明記してください。
https://form.cao.go.jp/wlb/opinion-0001.html
このままご返信いただけませんのでご了承ください。
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/e-mailmagazine/tetsuzuki.html
内閣府仕事と生活の調和推進室ホームページはこちらから
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/index.html
≪編集後記≫
一人一人のワーク・ライフ・バランス像ってありますよね。私の場合、長男が生まれて間もない頃、仕事がちょうど忙しくて、毎晩深夜帰りでした。 ある夜、家に帰ると、熱を出してほっぺが真っ赤な長男を毛布にくるんで抱えながら壁によりかかかって寝ている妻の姿を目の当たりにしました。「これではいけない」と思ったものの、なかなか実践できるまでに時間がかかったのを覚えています。長男も今や小学6年生、あの時の反省からできるだけ家族と過ごす時間を増やすようにしています。何事も、はじめの一歩が大事ですよね。(KK)
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